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目次
1. 本記事の目的
コロワイド(7616)の大戸屋(2705)買収に、シナジーは発生するのか?前編
本記事では、最近何かと世間を騒がせているコロワイド(7616)による、大戸屋ホールディングス(2705)のTOBによる子会社化について、企業買収に絶対不可欠な「シナジー」という観点から本買収の妥当性を評価します。
今回記事は後編です。
まず初めに、コロワイドと大戸屋のビジネスモデルを説明します。その次に、シナジーが発生するか説明し、本TOBの結論を述べます。
果たして、本買収はコロワイドおよび大戸屋にとって良い買収といえるのでしょうか?
コロワイド(7616)の企業情報
大戸屋(2705)の企業情報
2. コロワイドのビジネスモデル
コロワイドは、「甘太郎」や「土間土間」等の居酒屋、「牛角」等の焼肉、イタリアンレストランの「ラパウザ」を展開する、飲食事業のコングロマリッド企業と言えます。
コロワイドグループの強みとして、安価かつある程度の質が担保された食事が提供されるということが挙げられます。この強みは、コロワイドグループが独自のマーチャンダイジング戦略を採用していることで、大幅なコスト削減を実現しているからです。
その戦略の中心には、コロワイドMDという企業があります。コロワイドMDは、商品開発・調達・製造・物流などのバックヤード業務を支えるグループの要として、グループのマーチャンダイジングの中枢を担っています。お客様のご要望をスピーディーかつフレキシブルに、商品やサービスへと反映させるシステムは、他社店舗にはない価値をグループの店舗にもたらします。コロワイドMDが全国で展開する各工場は、グループ全体のセントラルキッチンとして稼働し、各店舗の仕込を軽減させる役割を果たしています。
セントラルキッチンのメリットとしては、集中的な製造による大幅なコスト削減や、店舗ごとの味のブレを無くすことによる質の均一化が挙げられます。
3. 大戸屋のビジネスモデル
コロワイドがセントラルキッチンを採用する一方で、大戸屋は各店舗ごとに食材を仕入れ、店内調理を行っています。
これにより、食材のトレサビリティーの徹底と、保存料等の余計な薬品を使用せずに済みます。そのため、「健康的な日本食、昔ながらの母の味」を提供するという企業のコンセプトの実現を図っています。
しかし、調理者により食事の質が異なるという点や、食事の提供に約10分以上の時間がかかるため回転率等が悪くなり、人件費や食品ロス、顧客の機会損失等の大量のコストがかかっているのが現状であります。
そのコストが大戸屋の経営を苦しめており、2019年11月に発表された大戸屋ホールディングスの2020年3月期第二四半期決算は、第一四半期決算に引き続き前年同期比で減収で営業利益も赤字に転落という厳しい業績に陥ってます
4. 考えられるシナジー
シナジーとは、前編でお話した通り、統合会社の将来CFが買収前の両社の将来CFを上回ることを言います。要するに、1+1=3みたいな話です。
まず、コロワイドにとってのシナジーは二点あります。一点目は、食材の提供先の増加による原価の低減です。コロワイドはセントラルキッチンを採用しているため、買収により食材の提供先が増加することは、工場の稼働率向上に寄与するため、一製品当たりの固定費減少につながるというコストシナジーが発生します。
二点目は、大戸屋のノウハウを利用した新たなブランドイメージの発生です。具体的に言うと、大戸屋には健康的で美味しいというブランドイメージがあります。対してコロワイドが展開する飲食店には、そのイメージがありません。そのため少し抽象的ですが、大戸屋のブランドイメージを活かした製品やノウハウを吸収することにより、グループ全体で健康市場の成長を取り込むことが可能となります。これは、売上シナジーの発生に寄与します。
大戸屋にとってのシナジーは二点あります。一点目は、セントラルキッチンからの食材提供による原材料費の削減です。それにより、原材料費の削減に加え、提供スピードの上昇による回転率上昇および人件費の低下につながります。
二点目は、コロワイドグループが有する顧客の共有です。コロワイドは、充実した飲食店グループやクラブコロワイドという予約サイト、充実した株主優待等、様々な種類の顧客を持っています。それらを共有してもらうことで、大戸屋に今まで行ったことがなかった新規顧客の獲得に繋がると考えられます。
以上二点より、双方にある程度のシナジーが発生すると考えています。しかし、買収には二つの大きな懸念点を抱えています。
一つ目は、やよい軒等定食業界の競合との競争激化です。やよい軒は、中食で培ったノウハウを、外食に応用しており、食材の共通化や配送費などのコストを抑えることで、お得な価格での食事提供を行う定食屋です。
今回のTOBでは、大戸屋の店内調理に置き換え、コロワイドのセントラルキッチンシステムを適用することが見込まれています。それにより、大戸屋の客単価は下がりますが、やよい軒との価格競争が熾烈化すると考えれます。価格競争が熾烈化すると、その業界の利益率は下がります。そのため、いかに大戸屋のブランドイメージを残しつつ、やよい軒等との価格競争を避けることを実現する必要があります。
二つ目の懸念点は、新型コロナウイルスによる外食業界全体の市場の落ち込みです。現在、日本では新型ウイルスの影響により外食業界が一気に落ち込んでいます。テイクアウトの市場は伸びておりますが、外食と比較しドリンク等の販売があまり見込めないため、利益が出にくい体質となっているようです。そのような中で、外食事業を行う大戸屋を買収することは、コロワイドにとってタイミングが良いものと言えるのでしょうか。
私個人的な意見としては、以上挙げた二つの懸念点が存在する中で、TOB公表前日の一株当たり終値2,113円に45.81%のプレミアムを加えた値で買収するのが割高であると考えます。そのため、その懸念点を上回るシナジーを発生させる企業努力が相当必要になります。
5. 結論
結論としては、本TOBにはある程度のシナジーが発生します。一方で、二つの大きな懸念点があるため、TOB公表前日の一株当たり終値2,113円に45.81%のプレミアムを加えた値で買収することの妥当性を得るためには、相当のシナジーを発生させなければなりません。結果としてTOBは、コロワイドの株主には相当なリスクを負わせるものになると思われます。
コロワイド(7616)の大戸屋(2705)買収に、シナジーは発生するのか?前編
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