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目次
1. 本記事の目的
本記事では、日本電産(6594)によるオムロン(6645)子会社のオムロンオートモーティブエレクトロニクス(以下OAE)の買収について評価を行います。この買収は、二つの理由により株主価値創造のための戦略的観点から評価できません。一つ目の理由は、市場環境の激化により売上シナジーの発生が非常に不確実なことです。二つ目は、直接的かつ大きなコストシナジーがないことです。もし予想した売上シナジーが発生しなかった場合、コストシナジーが不明瞭であるため、本買収による株主価値創造は難しいと考えられます。
2. 日本電産の中期戦略目標
日本電産は、中期戦略目標で事業単体での売上高目標を7,000億~1兆円と定める等、車載用モータ事業の戦略的立ち位置が非常に高いです。その理由は、自動車産業の潮流であるCASE(コネクテッド、自動運転、シェアリング、電動化)のAとEに当たるADASシステム市場とEV市場の伸長を、日本電産が高く見込んでいるためです。
3. 日本電産によるOAE買収の理由
日本電産によるOAEの買収は、二つの理由により行われました。一つ目は、日本電産が保有しないモータ制御システムやADAS技術を補完することでモジュール化を達成し、売上シナジーを見込むことです。モジュール化により、車載用モータ事業やADAS事業でのコスト競争力が高まり、市場シェア奪取により買収前の両社の売上合計を上回るシナジーの発生が期待されます。
二つ目は、クロスセリングによる売上シナジーの獲得です。両社は、ADASシステムや電源制御という製品で相互補完性があり、顧客が異なると見られます。そのため、今までモータ単品を販売していた企業に対し、モジュール化されコスト競争力の高まった製品群を販売することが可能となり、さらなる売上シナジーの発生が期待されます。
4. 本買収のコストシナジー
続いて、本買収により発生が見込まれるコストシナジーも二つあります。一つ目は、R&Dの効率化である。未保有の技術を持つ企業の買収は、買収前の両社が個別に研究を行うよりコスト効率が良くなると考えられます。
二つ目は、人材採用費の節約です。前述の通り、国内外でのEV市場やADAS市場の開発競争が激化しているため、関連した人材の確保が困難となります。そのため、本買収による人材採用費の節約にはコストシナジーが見込まれます。
5. 本買収の評価
以上より、日本電産のOAE買収は二つの売上シナジーと二つのコストシナジーの発生が見込まれます。しかし私は、二つの理由より本買収を評価しません。
一つ目は、次世代車向け車載部品の競争環境が激化していることで、売上シナジーの発生が非常に不確実なことです。モジュール化を実現するために、日本電産とは言え買収後の統合作業に相応の時間を要します。これは、技術開発の遅れにつながるため、市場への新規参入の脅威が大きい中で、売上シナジーの発生に不確実性を与えます。
二つ目は、両社の技術や製品が基本的に補完関係にあるため、重複設備の効率化等といった直接的かつ大きなコストシナジーがないことです。これは、会見や各記事でもシナジー効果の数値を具体的に示せていないことからも読み取れます。もし予想していた売上シナジーが発生しなかった場合、コストシナジーが不明瞭かつ大きくないため、将来キャッシュフローの現在価値の増加は難しくなります。そのため、私見ですが、日本電産の株主価値創造という観点で私は本買収を評価できません。
日本電産によるオムロンオートモーティブエレクトロニクスの買収に対する評価:オムロン編
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