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目次
1. 本記事の目的
公立病院の経営は赤字の深刻化が進んでおり、苦しい状況です。内閣府政策統括官のレポートによると、2015 年度における公立病院の経常収益総額は4兆108億円、経常費用は4兆656億円であり、経常収支比率は 98.7%となっています。
経常収支比率が100%を切るということは、国庫や都道府県からの補助金の収益があるにも関わらず費用を賄えない、いわゆる大赤字の状態です。収支比率の推移をみると1996年以降は悪化傾向が続き、2006年度には 95.2%まで低下しました。その後改善し 2010 年度には 100%を超えたましたが、近年は再び 100%以下の水準に低下しています。
また、補助金等の収益を考慮しない場合の経営指標である医業収支は、医業費用が医業収益を恒常的に上回る医業収支が100%以下の状態が続いており、2015 年度の数値が 89.5%となっています。
加えて、中央社会保険医療協議会が調査を行ったDPCに限った一般病院の損益差額率をみると、公立病院は他の開設者と比較し経営状態が非常に悪いことが分かります。
厚生労働省の「医療施設調査」によると、2018年10月1日現在における国と公的医療機関が持つ施設は1,531もあり、総数の18.3%と、依然大きな割合を占めています。そのため、公立病院の収益の改善は国や自治体にとって多大な効果がある。こうした状況を受け、厚生労働省は診療実績が少なく非効率な医療を招いている市町村などが運営する公立病院と、日本赤十字社などが運営する公的病院の25%超にあたる全国424病院について病院名を公表し、再編統合等の対応策を2020年9月までに決めるよう求めました。
私はこのような背景から、「なぜ公立病院はここまで経営収支が悪いのか」という疑問を持ち、既存のデータから要因を調査したいと考えました。
2. 公的病院の課題
公立病院が医業収支や経常収支比率の悪化に苦しんでいる主な理由は四つあると考えられます。それは、「人権費の高騰による経営の圧迫」「地方圏での医師や患者の減少」「診療報酬改定による経営への多大な影響」「病院経営者が医師に限定」です。
次の章からは、課題ごとに詳細を説明していきます。
3. 人権費の高騰による経営の圧迫
病院において近年の医師や看護師の人手不足による人件費の高騰は経営の悪化にダイレクトにつながります。厚生労働省の「医療従事者の需給に関する検討会 看護職員需給分科会」によると、一般病院と有床診療所の看護師の数は、ワークライフバランスの充実度が今後増加する過程で考えていくと、2025年において約12万人不足すると見込まれています。そのため、中期的には人手不足が慢性的に起きることを考慮する必要があります。しかし、今後7対1入院基本料の急性期病院が減ることで看護師の需要が減るという見方もあります。
医師においては、2004年に導入された「新医師臨床研修制度」が導入されてから、需給バランスは崩れたと言われています。この制度により、診療に従事しようとする医師は二年以上の臨床研修が義務付けられたため、実質二年間新規の医師の供給が絶たれました。
また、厚生労働省の平成30年雇用動向調査によると、医療福祉産業での離職率は15%を超える水準にあります。この離職率を抑えることが出来ない病院は、医師や看護師の人手不足が慢性化する要因となります。
給与の高騰という点では、厚生労働省の「医療経済実態調査」によると、2009年に約1,434万円であった病院勤務医の平均年収が令和元年に1,488万円となり、一人当たり年間約50万円強ものコスト高となっていることが分かります。また、厚生労働省の「賃金統計基本調査」によると、病院の従業員の中で多くを占める看護師の平均年収は、2010年の約469万円から2017年に478万円となり、一人当たり年間10万円のコスト高となります。
給与費含む人件費が経営にどのような影響を及ぼしているか把握するため、全国公私病院連盟および日本病院会が発表している「平成30年病院経営実態調査報告」を元に、民間病院を含めた病院全体の運営費における対医業収益比率の五年間推移をまとめました。その結果、医業収益に占める人件費比率は約54~56%程度と、運営費の半分以上を占めていることが判明しました。
次に私は、同じく「平成30年病院経営実態調査報告」を元に、自治体(公立)病院に限定して運営費における対医業収益比率の五年間推移をまとめました。その結果、医業収益に占める人件費比率は約57~59%程度と、全体の平均より約3ポイントも高いことが判明しました。この結果は、公立の病院では過剰人員の解雇等の対策が基本的に取れないため、公務員の給与体系に基づく看護師の平均年齢の上昇が人件費の上昇の一つの理由であると考えられます。
また、公立病院と総数の人件費の平均がここまで乖離する理由としては、看護補助職員の活用度の違いも挙げられます。健康保険組合連合会が発表した「第21回医療経済実態調査結果報告に関する分析」では、開設者別100床あたり職種別常勤職員数における医療法人の看護補助職員の割合が15.5人である一方で、国立病院は2.1人、公立病院は3.2人です。この数値の差が、人件費の差に繋がっているとも考えられます。
4.地方圏での医師や患者の減少
首相官邸のHPに掲載の「東京一極集中の是正について」では、東京圏への転入者数が増える一方、それに合わせ地方圏の転出者数が増加していることを示しています。これは、住民が地方圏から東京圏へ流出していると捉えることができます。医師においても都市圏の偏在が加速しており、将来的には患者も不足する可能性は高いのです。これらの結果、一部地域での病院や診療所の収入は減少し、倒産や閉鎖に繋がる恐れは高くなります。公立病院は地方圏に多いため、本課題は早急に解決する必要があります。
5.診療報酬改定による経営への多大な影響
診療報酬制度は、基本的に二年に一度改定されます。超高齢化社会と医学医療の進歩によって医療費が高騰を続けている一方で、病院業界の収益が国民負担の医療費によって賄われているため、国家の財政悪化に伴う医療費抑制政策である診療報酬の改定により、経営に大きな影響を受ける可能性はあります。特に公立病院では地域の需要に応えるべく、採算性の悪い診療科から簡単に撤退することが出来ないため、診療報酬改定による経営への影響が大きいという課題を抱えます。
また、平成26年度診療改定時に900億円を投じて医療提供体制改革の名目で基金が創設されたため、平成30年度診療報酬改定時に重点課題として挙げられた地域包括ケアシステムの構築と医療機能の分化・強化、連携の推進においては、各病院で重点的に対応する必要があります。
6.病院経営者が医師に限定
自治体等の財務状況が厳しくなる中で、公立病院は独立採算制を求められています。しかし、医療法人において、医療法第46条の3第1項では医療法人の理事長は原則、医師又は歯科医師としています。一般的に医師は経営を学ぶ機会が少なく、杜撰な病院経営を行う恐れがあります。そのため、公立病院は外部の支援を交えつつ、論理的かつ病院の将来を見据えたビジョンや戦略を定めなければならないという課題があります。加えて、定めた戦略を実行するための組織作りも重要な観点となります。
7.まとめ
背景で説明した通り、公立病院においては赤字の深刻化が進んでおり、経営の改善が急務であります。特に民間病院と比べて公立病院は、赤字が発生した際に自治体の税金によって賄われるため、そこに住む住民の生活に影響を及ぼすためです。U-Mapでは、公立病院の現状を踏まえた上で、今後どのような戦略を採用する必要があるか引き続き考えていきます。
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